生成AIに入力してはいけない情報は何ですか? 4つの区分と判断の基準
個人情報・他社の秘密情報・認証情報・未公表の経営情報の4つは入力しない。入力内容が事業者側に残るためです。
- 入力した内容の行き先は事業者のサーバーへの保存・モデルの学習・不正利用の監視の3つ。
- 学習に使うかどうかと、どこにどれだけ残るかは別の話。設定だけでは消えない。
- 禁止すべき情報は4区分。境目の情報は「社外の業務委託先にメールで送るか」で切り分ける。
- 事故の大半は攻撃ではなく、個人アカウントの持ち込み・ファイルの丸ごと投入・出力の無確認送信。
目次
「顧客の名前は入れないでください」。生成AIの社内ルールを尋ねると、この一行が返ってくる会社が多くあります。
正しいルールです。ただ、なぜ入れてはいけないのかを続けて説明できる人はそう多くありません。理由が共有されていないルールは忙しい日に破られます。目の前の作業が10分で終わるなら、名簿の1列くらい貼ってしまおう、と。危ないのはその判断が悪意なしに下されることです。
生成AIに入力してはいけない情報は何ですか?
4つです。個人情報、秘密保持義務を負っている他社の情報、認証情報、未公表の経営情報。
- 個人情報(顧客名簿、従業員の情報、連絡先、健康や家族に関する情報)
- 他社の秘密情報(秘密保持契約を結んで受領した資料、他社の未公開の計画)
- 認証情報(IDとパスワード、APIキー、社内システムの接続情報)
- 未公表の経営情報(決算前の数値、人事、取引の交渉状況)
1つめには根拠があります。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用に関する注意喚起等についてを公表しました。個人情報を含むプロンプトの入力にあたって、あらかじめ特定した利用目的の範囲内であることの確認と、生成AIサービス提供事業者が機械学習に利用しないことの確認を求める内容です。同意なく個人データを第三者へ渡してはならないという原則がそのまま生成AIにも及ぶと読めます。
2つめは見落とされます。自社の情報ではないので、社内の判断だけでは決められません。契約書に再委託や開示先の制限が書かれていれば、AIサービスへの入力がその制限に触れる可能性があります。相手の会社の同意が要る話であって、自社のルールを緩めても解決しません。
3つめと4つめは貼り付けた本人が「機密」と認識していないことが多い区分です。動かないシステムのエラーログを丸ごと相談すれば接続情報が混ざりますし、来期の計画を要約させれば未公表の数値がそのまま入ります。
なぜ入力してはいけないのですか?
入力した内容に3つの行き先があるからです。事業者のサーバーへの保存、モデルの学習への利用、不正利用の監視。
このうち世間で語られるのは2つめだけですが、実際に影響が出るのは1つめです。Googleは Gemini アプリについて、チャットの保持期間の既定を18か月とし、設定で3か月または36か月に変更できると案内しています。人によるレビューの対象になったチャットは設定を変えても最長3年間保持されるとも書かれています(Gemini Apps Privacy Hub)。Anthropicは商用製品について、既定では入力と出力をモデルの学習に使わないと明記しています(Is my data used for model training?)。
2社の記述を並べると、学習に使うかどうかと、どこにどれだけ残るかが別の話だと分かります。学習をオフにしても、送信した事実と内容が一定期間残ることは変わらない。ここを混ぜたまま「学習をオフにしたので大丈夫です」と説明すると、社内では安全宣言として受け取られます。
どれも事業者の悪意ではなく、契約条件として公開されている内容です。裏返せば、契約の選び方と設定で行き先はある程度変えられます。ある程度、というところが肝心です。変えられないのは「一度出したものは戻せない」という一点です。
個人向けプランと法人向けプランは何が違いますか?
契約の主体が違います。同じ画面、同じモデルでも、事故が起きたときに会社ができることが変わります。
差が出るのは主に4点です。
- 学習利用の既定値
- データの保持期間と削除の扱い
- 管理者が利用状況を把握し、アカウントを止められるかどうか
- 契約の主体が会社か、社員個人か
実務でいちばん差が出るのは4つめでした。社員が自分のクレジットカードで契約したアカウントで業務をしていると、何を入力したかを会社は知りません。退職しても止められない。その社員のアカウントに会社の資料が積み上がったまま残ります。個人のフリーメールで見積書を送っている状態と変わりません。ふだんは何ごともなく動きます。
迷ったときは何を基準に判断すればよいですか?
「その情報を社外の業務委託先にメールで送るか」で切り分けます。送るなら契約と手順が要る情報です。
4区分に当てはまらない情報のほうが日々の分量としては多い。会議の発言録、報告書の下書き、取引先から届いたメール本文。この帯をどう扱うかで運用の実効性が決まります。判断を毎回現場に委ねると、まじめな社員ほど手が止まります。
もう一つ、入口だけを見ていると抜ける論点があります。出口です。OnFieldは自社の経営をAI前提の仕組みで動かしていて、そこでは承認の境界を先に引いています。AIがやるのは下書きの作成、集計と仕分け、気づきの通知まで。対外への送信、支払いと契約、最終の確定は人だけがやる。AIの行動はすべて記録に残し、承認なしに送信や支払いが通らない構えを仕組みの側にも置いています。
理由は賢さで事故を防ぐ設計を信用していないからです。外部の文章に仕込まれた悪意ある指示をAIが拾う攻撃はゼロにできません。防げない前提を置くなら、被害が閉じる場所に線を引くほうが確実です。入力の禁止事項だけを配ったルールだと、この出口側が空いたままになります。
社内で実際に起きる事故はどれですか?
3つです。個人アカウントの持ち込み、ファイルの丸ごと投入、出力の無確認送信。派手な攻撃はほとんど関係ありません。
1つめは禁止した会社ほど起きます。業務が速くなる道具を目の前にした社員は自分のスマートフォンで使います。見えないところで使われるほうが、管理された環境で使われるより危険です。禁止するなら、代わりに使える環境を先に用意する必要があります。
2つめは操作の性質から来ます。「この契約書を要約して」「この名簿から重複を消して」。指示としては自然なので、中身を確認する理由が生まれません。テキストを貼り付けるときには注意が働き、ファイルを添付するときには働かない。ここは運用でカバーするしかない箇所です。
3つめは事実誤りだけの問題ではありません。以前のやりとりで扱った別の案件の情報が文章に紛れ込むことがあります。社外に出る文章は人が確認して確定する。この一手間だけは省けません。
ルールにする前に、何を整えておくべきですか?
情報の置き場所です。AIに読ませてよい情報と、いけない情報がフォルダのレベルで分かれている必要があります。
冒頭の「顧客の名前は入れないでください」に理由を添えるなら、こうなります。入力した内容は事業者のサーバーに一定期間残り、契約と設定によっては学習にも使われる。顧客の名前は自社の判断だけで社外へ出してよい情報ではないから。
そして、守られるルールには代わりの手段が要ります。会社が契約した環境を使う。4区分は入力しない。社外へ出る文章は人が確認して確定する。この3行を配るところまでが最低線です。置き場所が混ざったままだと3行目が形骸化します。ルール文書の作り方と運用の続け方は別の記事に分けました。
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