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AI活用公開 2026.06.30更新 2026.08.17

AI導入の費用対効果はどう試算すればよいですか? 削減時間を金額に換算する手順

削減時間×人件費の時間単価で月額を出し、8割の削減率と定着コストを織り込んでから回収期間を見ます。

  • 基本式は「月間の削減時間×人件費の時間単価=月間の削減額」。まずここまでを一つの業務で出す。
  • 時間単価は額面の給与だけでは足りない。事業主が負担する社会保険料を含めた金額で置く。
  • ミス削減と属人化の解消は金額にしづらい。試算表の外に注記として並べる。
  • 試算が崩れる主因は削減率100%・定着コストゼロ・導入前の実測なしの3点。
  • 回収期間の閾値は金額を出す前に決めておくと会議が前提の取り合いにならない。
目次

「それでいくら儲かるの」。AI導入の話を役員会に持っていくと、たいていこの一言で止まります。現場の手応えは確かにある。作業は明らかに楽になっている。それなのに、聞かれた瞬間に出てくる言葉が「便利になります」しかない。

便利は金額ではないので、稟議は通りません。効果は数字にできます。換算する手順を持っていないだけです。

「便利になる」をどう金額に直しますか?

一本の式に入れます。月間の削減時間×人件費の時間単価=月間の削減額。ここから始めます。

実際の数字を入れると、印象がかなり変わります。当社が小売企業のレジシフト作成システムを手がけたときも、機能の話より先に担当者の作業時間を記録してもらいました。3店舗分のシフトを組み終えるまでに、どの作業へ何分使っているのか。作業の種類ごとに分けた時間が並べば、削減できる時間と月間の削減額を同じ式に乗せられます。

同じ話を「シフト作成が楽になります」と伝えていたときと、内容は1ミリも変わっていません。変わったのは判断できる形になっているかどうかです。

Case年商300億円規模の小売企業向けシフト作成システムを開発店舗ごとの人員、勤務時間、休憩、レジ配置が互いに絡み合い、1か所を直すと別の場所に矛盾が出る。この調整の連鎖をシステム側へ移した開発事例です。

人件費の時間単価はどう置きますか?

額面の給与を労働時間で割っただけでは足りません。事業主が負担する社会保険料を上乗せしてから割ります。

厚生年金の保険料率は18.3%で固定されています(日本年金機構)。健康保険や労働保険とあわせて、これらには事業主の負担分があり、会社は給与の額面に上乗せした金額を払っています。時間単価をこの上乗せ後の金額で置かないと、削減額を実際より小さく見積もることになります。

自社で試算するときは対象業務を実際に担当している人の給与から単価を出します。パートが担当している作業を正社員の給与で計算すれば、削減額は実際より大きく出ます。役員の時間単価で計算した資料はそれだけで信用されません。上乗せ後の単価を誰の給与から出したのか、試算表に一行残しておくと質問に答えられます。

時間の削減以外の効果はどう扱いますか?

金額欄には入れず、注記として並べます。数えやすい時間だけで判断すると、効果はたいてい過小評価になります。

現場で差が出るのは次のような部分です。

  • 転記ミスや計算ミスが減り、手戻りと謝罪対応の時間が消える
  • 担当者が休んでも業務が止まらない
  • 引き継ぎと教育にかかる時間が短くなる
  • 承認や確認の待ち時間が減り、意思決定が前に進む

一つめは金額にしやすい部類です。1件のミスの後処理に平均何時間かかり、月に何件起きているか。この2つを記録から拾えば、削減時間と同じ式に乗ります。

二つめと三つめは経営にとってむしろ本命です。属人化した業務は担当者の退職まで表面化しません。表面化したときのコストは採用と教育のやり直しそのものです。頻度が読みにくいぶん金額にしづらいのですが、試算表の外に置いてしまうと、投資の判断がずっと保守的な側に傾きます。数値の欄に入れられなくても、注記として並べておくだけで議論の質は変わります。

試算が現実と食い違うのはなぜですか?

前提の置き方に決まった4つの穴があるからです。きれいな試算表を作ったのに導入後に「思ったほど効果が出ていない」となるのはだいたいこのどれかです。

削減した時間が消えていない。浮いた時間が別の付加価値のある仕事に回っているのか、単に手待ちになっているのか。ここを設計しないと、削減額は帳簿のどこにも現れません。人を減らさない前提なら、空いた時間で何をするかまで含めて効果です。

100%の削減を前提に置いている。実務では例外処理が必ず残ります。8割を自動化し、残り2割は人が見る。この形が現実的なので、試算も8割で置いたほうが後の説明が楽になります。

導入と定着のコストを数えていない。資料の整備、既存データの移行、操作の教育、運用ルールの整理。システムの費用だけを分母に置くと、実際より良い数字が出ます。

導入前の実測がない。「たぶん4時間くらい」で始めると、効果の検証ができません。1週間でいいので、着手前にストップウォッチで測っておくと、あとで揉めずに済みます。

もう一つ。社外に見せる資料と社内の判断材料は分けておきます。稟議には堅めの前提で作った数字を載せ、上振れの可能性は別枠で示す。試算が実績を下回った経験が一度あると、次の投資の話が通らなくなります。控えめな数字で通した案件が想定を超えるほうが、次につながります。

回収期間はいつ決めますか?

金額を出す前に決めます。初期費用を月間の削減額で割れば回収月数は出ますが、順番を逆にすると会議が長引きます。

月額のかかる仕組みなら、削減額から月額を引いた金額が毎月の純効果です。ここまでは計算の話なので、難しくありません。難所は閾値のほうです。何か月以内なら投資してよいのか。それを決めずに数字を出すと、会議は前提の取り合いになります。基準が先にあれば、議論は「この試算の前提は妥当か」という一点に集中します。

どこから手をつけるかで迷っている段階なら、対象の選び方から整理したほうが早いこともあります。

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どの業務から測り始めればよいですか?

毎日または毎週必ず発生していて、担当者が固定されている業務からです。頻度が高いほど月間の削減時間が大きくなり、担当が固定されているほど導入前の実測が取りやすくなります。

冒頭の「いくら儲かるの」に戻ります。この問いに答えられなかった理由は測っていなかったからです。対象を一つの業務に絞り、着手前に時間を測り、削減後にもう一度測る。1業務ぶんの実測値が手元にあれば、次の稟議は同じ形式で書けます。全社の投資対効果はこの積み上げでしか出てきません。

残る問題は最初の1業務をシステム化するのか、既存のツールの組み合わせで済ませるのかの判断です。ここは業務の形によって答えが変わります。

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